今の経営理念の根本になるような衝撃的な出来事がありました。
それは、父が手掛けた家づくりにおいてです。
小さなお子さんが3人いらっしゃる若いご夫婦でした。
仲のいいご家族で日曜日には私の自宅に来て一緒に野菜をとったりバーベキューをしたり子供たちが嬉しそうにはしゃいでいたことが、今でも目に焼き付いています。
ご主人様はとても気さくな方で私のことも可愛がってくれました。
「父はとてもいい関係でお客様とお付き合いしているなぁ」と、思っていました。
いつの間にか、そのご家族が私の父が建てた新築住宅から居なくなってしまったのです。
人が居なくなった家からは子供のはしゃぎ声一つ、物音がしません。
「なぜ?家も新築してあんなに幸せそうだったのに・・・。」
風のたよりでは、「夫婦仲が悪くなった」「お金のトラブルがあった」などということを耳にしました。
私は心にぽっかりと穴が空いたような、とても寂しい気持ちになりました。
それと同時に、私たちに何か出来る事があったんじゃないかと、とても悔しい思いが込み上げてきました。
しかし、高校生だった当時の私には、悶々とする思いがあるだけで、その答えは見つかりませんでした。
建設会社に入社して3年が過ぎた頃のことです。
1軒の個人住宅の新築工事を担当することになりました。
家族5人で、八百屋を営むご家族でした。
ご主人様は無口で真面目、奥様は笑顔が素敵な優しい方でした。
まだ20代前半の未熟な私でしたが色々と頼りにしてくれ、相談を持ちかけてくれました。
今までお客様の顔が見えない仕事ばかりをしていた私は、直接お客様と一緒になって1つの家をつくり上げていく「住宅建築」の仕事に大きな魅力を感じました。
そしてもう1つ気がついたのは、自分が何気なくやっていることがお客様にとても感謝され、喜んでもらえたことに対する衝撃でした。
幼い頃から大工仕事の手伝いばかりをしていた私は、自然とある程度の技術が身に付いていました。
棚を付けたり、建具の調整をしたり、ちょっとした修理は簡単に出来てしまうのです。
お客様にご要望頂くと、その場でササッと直して差し上げました。
そのことを、とても感謝されたのです。
引渡し後の定期メンテナンスで伺ったときには、色々な修理を頼まれその場で直しました。
そして、感謝される。それが、私は嬉しかったのです。
そして気がつきました。
「実は、家を作る仕事は自分に一番あっていて、自分の存在や技術が人の役に立つ天職なのではないか?」
そう思ったのです。
今でもふと、高校生だった頃の「あの苦い記憶」を思い出します。
幸せだった家族が、ある日突然、新築した家からいなくなってしまう。
どんな事情があったのかはわかりません。
しかし、「無理な資金計画」で、無理な夢の叶え方をしたのではないか?
それがもとで支払いが出来なくなり、夫婦仲が悪くなってしまったのではないか?
もしそうだとしたら、新築を請け負った私の会社にも責任の一端がある。
そう考えるようになったのです。
「家づくりって何だろう・・・?」
「ただ、お客様の希望する家だけ建てればいいのか・・・?」
普通は一生に一度の家づくりですから、あれも叶えたいこれも叶えたいと夢は広がる一方だと思います。
それに、何千万円という話の中では目先の5万、10万が少額に感じてしまう感覚にも理解が出来ます。
だからこそ、我々プロが適切なアドバイスをしないとならない。
そして、気がつきました。
「そうだ、お客様は家という箱だけ欲しい訳じゃない。
そこで暮らす家族との幸せな生活を一番に願っているんだ。
本当の家づくり。それはご家族の幸せ、豊かな暮らしづくりのお手伝いをすることなんだ。」
と、確信しました。
そして、出来た経営理念が「木のぬくもり、人のぬくもり、幸せあふれる家づくり」です。